Update 980909

 

この夏のこと
 

この夏、いろいろ疲れたので海を見に行きました
飛行機はずっと海の上を飛んで
日本は島国なんだと改めて思ったりしました
その日は暑い暑い街をぶらぶらして
その島に生えるという草のご飯を食べ
褐色の肌の人達と夜を過ごしました
海風の吹く木でできた小さなバーは
貝殻でできた灰皿とレゲエのリズム
その島に生えるという草のごちそうはとても美味しくて
潮風の中で私はいい気持ちになりました
目の前のビーチで寝泊りしているという男の子達は
どこからともなく集まってくる同じ風来坊と
夜な夜な太鼓をたたいてすごし
日が上ると拾った貝殻で作ったアクセサリーを
マーケットに売りに行きます
この島はそんなゆっくりしたリズムで動いています

次の日は戦車がとおる幅で作られた道路を車で飛ばしました
この国を守ってくれるはずの戦士は
悪さをしてから街で見かけなくなったそうです
街は2つの国の言葉が交じっていて変な感じ
悲しい歴史の跡だという海岸にたどりつくと
一緒にいた友達は感じるものがあって嫌だといいます
私たちの前の前の母達はこの岸壁から身を投げて死んだ
私たちの前の前の父達はこの海から旅に出て帰ってこなかった
生きていたら、もし生きていたら
死んでまで守ったこの国の今を見てどう思うのだろう
私は浜辺で一生懸命、人のなきがらを避けながら
貝殻を拾い集めタバコの箱にしまいました
今の私は何を守って生きているのだろう
海の水は恐ろしく綺麗に澄んでいてあたたかかった
この日も草のご飯は私を幸せにしてくれました

次の日は朝早く起きてビーチへでました
この街は今日から死者の霊を迎える祭りの時期で
通りを歩いているのはよそから来た者だけ
車も少なくひっそりとしています
島にきて2年になる彼はよく日に焼けています
案内してくれた高い崖を降りると誰もいない入り江があって
小さなほこらが祭ってありました
私たちは服を脱いで海に入りました
サンゴ礁の海は空の色を移したようなブルー
生まれたてのサンゴがいる辺りはミルク色に見えます
たくさんいるウニや30cmもあるナマコを避けながら進むと
サンゴの影に青や黄の魚がいっぱい泳いでいます
私は何度もころんでサンゴであちこちを切ったらしく
気がつくと血がたくさん流れていました
人の肌と海の水は同じぐらいの温度
いつまでもただよってサンゴのかけらになりました

日焼けの肌が火照って眠れずいろんなことを考えました
私を解体して中身を全部お日様の下にさらして
魚につつかれて犬や鳥や虫のごちそうになれば
自然に帰ることができるのでしょうか
私は今までの私を消しさってしまいたかった
誰も知らないところで誰にも知られないで
それなのに帰らなければならないと思う焦りはなんなのでしょう
私が帰りたい場所はどこなのだろうか
私が今ここにあること、私の昔につづく背負っているもの
この海にしずむ魂の声は私に何をさけんでいるのか
体の傷は島に生えているアロエをとってつけるといいと言われ
そのとうりにしたらもう血は止まりました
今夜は風が止んでしまい寝苦しい夜です

空港までのタクシーの中で島の顔をした初老のドライバーが
出発までまだ時間があるならぜひ見せたいところがあるといい
今日は祭りの最終日、魂を海に見送る日で
マーケットは北の人がやっているからまだ開かないらしく
案内すると親切なので、そのまま走り続けます
この島をむかし守っていた王国があったこと
王様が住んでいたとても大きな赤いお城のあとや
島に伝わるカラフルな織物のファクトリーを
すずしい車からながめてまわりました
その島に生えるという草はどんなにおいしくても
私の住む街には持って帰ることはできません
ドライバーから通々聞いた昔話がお土産になりました

帰りの飛行機はどんどん日常に近づいていきます
こうして短い私の夏休みは終わり
口を開けてまっている繰り返しの日々に
飲み込まれていきました

 

 

 

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