up data 1997.9.19

月灯りの下では
 

なじみの店で、ドライブに行こうと誘われた。
私と、羽を伸ばしにきた人妻、29歳男の3人。
ガソリンを入れて、馬鹿な話をしながら行けるところまで行こう。

街を離れて北へ、30分も走ればそこは海。
誰もいない小さな入り江。防波堤。テトラポッド。
夜空には星。そして月灯り。

29歳男の地元。子供のころ釣をした思いでの場所。
旦那をおいて帰郷中の羽伸ばし人妻もご満悦。
チェーンスモーカーで皮肉屋の25歳の私。

3人で防波堤に川の字。風もなく、波も静かな夜の海。
「気持ちがいいね」
「気持ちがいいね」
「楽しいね」
「ホント、それだけだね」
「でたらめな時間だ」
「そうそう、おかしいね」
「うん、おかしい」

その気持ち以外、何も共有することのない3人。
ただ、バーでなじみであるだけの、おかしなキャスティング。
私は、みつからない言葉を探している。
それは慣れない作業で少し苦しかった。
浮かんでは、波音にかき消されて
聞こえるものだけ聞いていればいいだけなのに。

頭を止めることができた。
私がすくわれる、ほんのひととき。

 

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Presented by
Megumi Hinokiyama
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