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夜の1時。家の人が寝静まった頃に出かけた。玄関から靴をとって、ソーッと自分の部屋から。星がみている以外は無事に脱出。誰にも知られず、好きな人の家に遊びにいく。
携帯をかけてもつながらない。変だなぁと思いつつ玄関を開けると、シャワーをあびていた彼が、髪の毛をタオルでふきながら出てきた。大きなのがゆれていてちょっと照れた。お湯をわかして、持ってきた豆でコーヒーを入れる。部屋にはいつものBGMがかかっている。私の好きな時間が流れている。
この間デザインした名刺のこと、子供の頃のこと、部屋に飾ってある女の子の写真のこと、自分に自信があるかどうか、いろいろおしゃべりして、煙草をたくさん吸って、コーヒーを飲んで、ずっと2人で。
煙が気になって、ドアをあけると、冷たい風が入ってきた。でも、今は体温を感じられる距離にいる。すごくあったかい腕が首にまかれている。だから平気。切ったばかりの髪をほめてもらえたから平気。
クチビルがふれると意識がぼうっとなる。厚いクチビルですっぽり口をふさがれるキスがすごく好きだから。 小さくて気にしている胸をさわさわとなでる手もある。私は女の子に戻る。ゆっくり体温で解凍されて、せつない気持ちが顔を出してくる。がまんできないところまで私を連れて行ってと、心の中でお願いする。
二人裸のまま、くっついたり、離れたり、触ったり、触られたり。息が苦しくなって、必死にしがみついた。固いものが私の中をつらぬく。きつく抱きしめられたい気持ちと、優しくしてほしい気持ちが複雑にからみあって、言葉が聞こえなくなった。
何かが確かに、私の中ではじけて消えた。体の震えがとまらなかった。余韻が消えるまで、ずっと抱かれていた。
寝顔にキスをして帰るのは嬉しい習慣。また会えるよね、とつぶやきながら、体の中に記録された彼が消えないように、早く、誰にも見つからないでお家に帰ろう。静かにドアをしめて、車にキーをさす。少し眠いけど大丈夫。朝がくるまで、あと3時間。戻って、何もなかったように寝てしまおう。
夜の道路は貸し切りで気分がいい。急に運転がうまくなった気取り。静かな夜の街は私のためにあるような錯覚。
駐車場に車を入れて、出てきた時に少し開けておいたドアに手をかける。無事到着。夜が見方してくれたよ。私は闇に隠れて、誰にも知られず彼だけのものになって帰ってきました。もしものために、ベッドにはセーターを入れてふくらむ細工をしておいた。寝返りを打って向こうをむいてる私はこんな感じなんだろうな。今日も一日ありがとう神様。おやすみなさい…
…と、カヴァをめくると、そこには私がいた。
寝返りを打って向こうをむいてる私がいた。
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